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INFO:
 全ての人間に問いたい。地球は弱肉強食で成り立っていることを忘れていないか?幼い頃にテレビで、ライオンの特集を見てから私は、18年間ずっとそう思って生きている。ライオンのオスは、「プライド」と呼ばれる群れのオスに戦いを仕掛けて勝つと、そのグループに元々いる子供を皆殺しにする。強いものが全てを支配するのだ。それは自然界に限った話じゃない。人間だってそうだ。学校の先生が私を叱るのも、親が私を叩くのも、学校帰りのコンビニ店員の態度が悪いのも、隣の席の佐々木が私に「しね」と言うのも、そう。私が弱いから。私はいつも勝てない。ただ歯を食いしばって我慢することになる。きっと、出かけようとした途端に降ってきたこの雨も、私の運が悪いから。玄関の扉は、映画にありそうな金庫の扉みたいに重く感じる。雨の音が響く。雨の匂いがする。やっぱり降っている。どうせ濡れるんだからと、白いサンダルを履いて来た。荒っぽく、壊れかけのビニール傘を開く。雨の音が傘を貫通して、心拍と同期する。あぁ、無性にイライラする。ブロック塀の根本に咲いたタンポポを静かに踏み潰して、夜の街へと一歩踏み出した。  私が処女を捨てたのは中学2年生の初夏。理由はなんだろう。変わらない退屈な日常を終わらせたかったからと言えばハマるのかもしれない。理不尽なことで殴って来る親、理由も聞かずに私だけに怒って来る先生とか周りの大人に、ずっと嫌気がさしていた。毎日歯を食いしばって生きてるのが馬鹿馬鹿しくなって、夜の街に飛び出した。その日の夜、私は死のうとしていた。まるで、手放してふわふわ飛んで行ってしまった風船のように、目的地の無い旅に出たあの時の私を、抱きしめたのは、知らないお兄さんだった。今の私があの頃に戻れたのなら、赤信号を飛び出そうとしている子供を引き止めるみたいに、後ろ手を引くかもしれない。そして、ぎゅっと。力強く抱きしめたい。でもこの気持ちも、もしかしたら偽善なのかもしれない。だって私は弱いから。どうせその時になれば足どころか、手も出ないし動けやしないはずだ。  ただ、抱きしめて欲しかっただけ。でも、子どもだった私の願いと、大人の願いにはすれ違いがあった。うん、私の知らない世界がそこにはあった。だって、知らなかったんだもん。そんな言い訳が通じない世界。綺麗なように見えて、すごく汚い世界。私はそんな世界に魂を置いてきた。夢見心地でずっと一人、シーツを握っていた。きっと、同じ教室のアイツらはまだ分からない。私はもう大人になった。アイツらとは違う。今度は勝てるはずだ。いやもう勝っている。  夜、目を閉じるといつも涙が流れてくる。教室で、休み時間に笑って叫んでいるアイツらと、ひとりぼっちで座っている私。どこで道を間違えたのか、なにも分からない。多分、なにも分かっていない私自身に、悲しくなって涙が出てくる。強くなりたい。私も、もっと強くなりたい。